泳ぐ化石アルテミアサリーナ 

科学雑誌の付録についた
生きた化石のえびぞーくん
塩の砂漠でうたたねこいて
いつのまにやらミイラにされた

税込み価格600円の
死者の書に載るうっかりさんは
課題を怠けたわたしのために
腰みのを着て手を挙げていた

最初の日付は31日
急ごしらえの研究日誌の
一ページ目をこしらえよう

はじめに、今亡き金魚の家に
蛇口を開いて世界をそそぐ
天下の一つに水が集まり
空と海とがわけられた
コンソメ色の卵をおとして
お好みで塩をふりかける
コックはこれ見てよしとして
ほとんどいちにち休まれた


二段ベッドのはしごをおりて
かれらの様子をご覧になると
園をたがやすものはなし
鉢の六方 音沙汰もなし
浮かんでいるのはエビ抜きのちり

玄関の前にのこったシミは
ツワモノどもがゆめのあと
なきつかれたわたしのそばに
誰かがおいたカラの家

家ので先にでてみてると
逃げ出た海はひあがって
墓標を立てるところもない

すると

ぴちょり 一粒くちびるにはねる
ぴちょり はっとなるまにしみこんでいく
 しみこんでいくわたしの中に
ほこりまじりの梅雨の雨

えびぞーくんはコンクリートの海を泳ぐ




作:saboten