《映画》スーパーサイズミー


 アメリカはなにもかもがでっかい。でっかい車、でっかい会社、でっかい食べ物、それからなによりでっかい人間だ。

 

  30日間マクドナルドの商品だけを食べ続けると、人間の体はどうなってしまうのか。野心あふれる若き映画監督モーガン・スパーロックはカメラを回した。

 食べなければならないのはバーガーだけではない。サイドメニューもドリンクもすべて制覇しなければならない。ポテト、ナゲット、シーザーサラダ、ソフトクリームにチョコレートサンデー…はてはバーベキューソースに至るまで、食べて食べて食べ続ける。サイズはすべてLサイズ、スーパーサイズを勧められたら断ってはいけない。スーパーサイズの容積は二リットルのペットボトルよりもおおきい。持ち歩いていると、まるで抱き枕のように見える。

 アメリカ合衆国保健福祉省の報告によれば、WHOの定めたBMI基準を超える国内成人男性は34.9%にのぼり、実に7860万人が肥満であるといわれている。日本のBMI基準を当てはめてみると、国民の7割が肥満だというから、現在の状態が異常であることがわかる。

 2003年、自分たちの肥満の原因がジャンクフードにあると考えた肥満少女二人が、業界最大手マクドナルドを訴えた。判事はこの訴えを退け、マクドナルドの商品を常食することが健康に著しい悪影響を及ぼすかどうかの検証が、まず必要であると述べた。モーガンはこれを検証しようというのである。

 はじめカメラの前で元気よく悪態をついていたモーガンも、日にちがたつにつれてげっそりしていった。頬はこけて、目はうつろ。登場人物は医者と病人だらけ。なるほどこれはホラー映画だったのか。

 半月ほどたって、カメラの前に痩身の女性が現れる。われらがスパーロックの彼女アレクサンドラ・ジャサミンだ。アレクサンドラは菜食主義者で、モーガンが企画を始めるまでは彼にヘルシー(?)な料理をふるまっていたらしい。彼女は物憂げな顔で、モーガンの「アレ」がおかしいと証言する。サイズと硬さが心もとなくなってしまったそうだ。おいおい雲行きが怪しくなってきたぞ。おそろしやマクドナルド。モーガンが短気なのもマクドナルドのせいに違いない。

 アメリカの給食事情も並行して映画の中で語られる。たいていの学校は、給食を供給する業者から多額の寄付金をもらっており、会社の提供する料理について口出しできない。栄養バランスを考えている業者はごく少数で、ほとんどが安価な食材と食品添加物をいっぱいつかった料理を子供たちにふるまう。

 ジャンクフードや食品添加物の話を聞いて思い出すのは、中学高校の家庭科の授業だ。聖書と同じくらい分厚い教科書の中身は、驚くほど薄味だった。脅し文句やキャッチーな字面が飛び交うばかりで、「じゃあ具体的に、被扶養者であるぼくたちがどこでどれだけたべればいいか」なんてほとんど書いてなかった。家庭科の教師たちによれば、恐竜もネアンデルタール人も食品添加物のせいで絶滅したそうだ。その通りだ。ぼくたちがどうしようもなく自堕落で情けないことだって、みんな食品添加物のせいだ。

 

 脂肪と糖分をオーバードースさせようとするアメリカ企業に、オーバーな演出で立ち向かう構図はドキュメンタリーというよりもジョーク映画だった。オーバーすぎる演出のおかげで、スパーロックの実験がとても嘘くさくなってしまっているのも見事としか言いようがない。

 どんなものも、それだけを毎日とり続けたら体をこわしてしまう。本質的な問題は貧困だ。マクドナルドが買わせているのではなくて、マクドナルドしか買えないのだ。アメリカは車社会なので、遠くの安価なスーパーにいけない貧困世帯はマクドナルドで食事をとるしかない。肥満人口は栄養失調人口であり、貧困人口の数なのである。

 

 さて、この「ジョーク」映画には、愛すべき人物がでてくる。ビックマック男だ。彼は39年間毎日ビックマックセットだけを食べ続けていて、今までに食べたビックマックは先日二万八千個を超えたそうだ。モーガンは彼を頭のおかしい奴として演出しようとしていたようだが、彼がしっかりと言葉を選んで受け答えをしたために、視聴者には彼が紳士にしかみえなくなってしまった。モーガンもそれに気づいたのか、彼のインタビューシーンはほかの人に比べてずいぶん短めだ。ぼくはというと、彼の顔がどこからどうみてもジョン・レノンだったので、テレビの前で大笑いした。

 この映画をジョーク映画として楽しむなら、愛すべきジョン・マック登場シーンまで早送りすることを勧める。きっと、救われない主人公は詩を読むべきでも手紙を書くべきでもなかった。ビッグマックをたべるべきだった。きっと彼らだってモーガンがいうみたいなジャンキージャンキーになれただろう。

 

参考資料

‣アメリカ合衆国保健福祉省

http://www.cdc.gov/obesity/data/adult.html

 

(記者:saboten)

 

志賀直哉も

フレッシュ○○バーガーを

食べれば

ハッピーな

療養生活が

送れたはずだ