《科学》昆虫食が流行しない理由 イモムシを解放せよ

 

 この記事は昆虫食についての記事です。写真などは出てきませんが、文章に昆虫の名前がでてきます。
生理的に嫌悪感を抱く方は閲覧を控えてください。

  • 昆虫食が注目される背景

   現在世界の人口は73億人を突破し、2050年には97億人になると言われている。それに伴って、人口が食料供給量を上回ってしまうのではないかという懸念が高まっている。しかし、実際のところ問題になるのは「量」ではない。 

   WHOは世界の「飢餓人口」が約10億人であると発表した。ところが東京大学の川島博之准教授によれば、それはなにも食べていない路上生活者が約十億人存在しているということを意味するものではないという。世界最貧国と呼ばれているバングラデシュではむしろ米が余ってしまって価格が下落している。それでは「飢餓人口」とはなにかというと、それは栄養失調の人々の数を指している。(栄養失調とは、その名の通り各栄養素の不足による貧血や低体温状態のことである。)

   川島准教授によれば人口問題と食糧問題には相関関係はなく、「飢餓人口」の増加はその地域における政治的な混乱が引き起こしたものであると結論づける。安定した政治状況下で効率的に工業化を進めれば、栄養豊富な食糧を生産・供給していくことが可能になり、やがて「飢餓人口」は減少していくだろうというわけだ。 

     

   ところが栄養失調の人間は新興国だけではなく、先進国にも多数存在しているという事実がある。WHOのデータによればアメリカでは毎年68000人が栄養失調がもとでなくなっており、日本でも一昨年死亡した方の内1697人が栄養失調を死因としていたことをダイヤモンドが伝えている。 現代の世界においては、もはや安価で大量の食糧は必要とされておらず、効率的で栄養豊富な食糧が求められている。 近頃その解決策として注目され始めているのが、虫食である。

 

   FAO(国際連合食糧農業機関)は2013年に虫食についての報告書を公式ホームページにアップロードした。  

その中で 

1.食用昆虫の飼育は他の家畜に比べて必要な飼料、水、土地がはるかに少なくて済む。 

2.飼育にあたって排出される温室効果ガス、アンモニアがかぎりなく少ない。

 3.昆虫は高脂肪、高タンパク、ビタミン・食物繊維・ミネラルが豊富である。 

などの利点を報告した。 

   ここだけをみると、食用昆虫が世界各地で食べられていないことが不思議である。野中健一の『昆虫食の先進国ニッポン』によると、はちのこ、イナゴが加工量約1トンに対して、国産牛の供給量は833千トンと差は歴然である。日本では古くからイナゴが食べられていることは有名だが、そんな日本においてさえも、昆虫食がマイナーなものになっているのはなぜだろうか。 

  • 昆虫食が「ゲテモノ」になっている 

   これまで、食用昆虫を取り上げたTV番組や雑誌は数多く存在する。しかし、その中のほぼ全てで昆虫は丸焼きにされている。カットではいる海外の写真は、もちろん無造作に積み上げられたイナゴの丸焼き、瓶詰めにされたスズメバチ。実演する虫食専門家はテレビタレントの前でイモムシをフライパンに放り込んでみせる。 

   想像してみよう。だれが目の前で生きたまま丸焼きにされた豚を食べたいのか。だれがウロコがついたままの淡水魚を食べたいのか。だれがごちゃごちゃに盛り付けられた料理に不安を感じないのか。 

   今は21世紀である。料理とは食べやすいように加工し、味付けをし、盛り付けにこだわってきた人類の叡智である。文化の東西にかかわらず、私たちは常に美味しい料理を求めてきたのだ。材料がなんであろうが関係ない。 なぜ虫食だけはほぼ全て丸焼きなのだ。殻を取ったり、粉末にしたり、美味しく見えるように盛り付けたりしてもよいはずである。 

   虫食の今の立ち位置は「ゲテモノ」である。虫を食べることがパフォーマンスの一環になってしまっている。そんな勿体無いことをすべきではない。虫食は料理なのだから。

   

   虫食を「ゲテモノ」扱いすることが、虫食嫌悪につながっていると先ほど述べた。もちろんそれ以外にも理由はあるだろう。虫と言われて思い出されるものの中には、ゴキブリをはじめとする残飯あさりの虫たちもいる。そういった虫たちのイメージは不衛生で、毒があり、食べようものなら、われわれの身体の中に卵を産みつけそうである。 

   FAOの報告書にもあるように、虫食についてはわからないことがおおい。安心して虫食がテーブルの上に上がるためには、この虫の成分は身体に無害である、あの虫は身体に有害であるという虫ごとの成分表を作成する必要がある。 

   また、虫をたべることでアレルギー反応を引き起こしす場合もあるだろう。栄養学的な見地だけではなく、医学的見地からも検証を進めていくべきだ。 

   

   問題は山積みだが、希望もある。日本には、虫食に近い微生物食の成功例があるのだ。 

euglenaという企業は、ミドリムシを材料とする自社健康食品が2014年に30億円以上の売り上げがあったことを報告している。しかも、この売り上げのほとんどを定期購入販売が占めていたのである。 

   ミドリムシの青汁が、虫食と同じように「ゲテモノ」扱いされることなく世に認められたのは 

・ミドリムシに含まれる成分が人体に一切有害ではないことを、TVや雑誌を利用して消費者にわかりやすく伝えられたこと。

・細かく砕いて飲み手が他のジュースと遜色なく飲むことができること。

であると、現状の虫食を取り巻く状況と比較することで推測できる。    

     

   「虫食は栄養満点!まるごとかじっちゃえ!」と言われて食べるひとは余程の物好きである。知る人ぞ知るものではなく、一般家庭のテーブルの上にあげたいのならば「ゲテモノ」の盛り合わせのような古典的イメージに固執することをいい加減やめるべきだろう。

参考サイト

‣日経ビジネスオンライン:「世界人口70億人突破 食料危機のホントに迫る」http://special.nikkeibp.co.jp/as/201207/next_nippon/vol3/

‣WHO database

http://www.who.int/nutgrowthdb/database/countries/usa/en/

‣WORLD HEALTH RANKINGS

http://www.worldlifeexpectancy.com/cause-of-death/malnutrition/by-country/

‣ダイアモンドオンライン:「栄養失調による死者数は殺人被害者の4倍!」

http://diamond.jp/articles/-/80998

‣FAO Edible insects Future prospects for food and feed security

http://www.fao.org/docrep/018/i3253e/i3253e00.htm

‣株式会社ユーグレナ 2015年9月上半期業績

https://www.euglena.jp/ir/library/pdf/presentation_20150601.pdf

‣株式会社ユーグレナ 2015年9月期決算説明

http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=130577

 

(記者:saboten)